「冗談を学ぶ」と言っても、
カプースチンと川上昌裕先生が
メールで冗談を言い合っている話の報告ではない。
「冗談」という曲(Dブルース)の分析をするんだよ。
この曲は「8つの演奏会用エチュード」(作品40)
に収録されている第5番目の曲なんだ。
コード進行は単純なんだけど、楽譜は複雑。
8つの演奏会用エチュード 作品40(プリズム版)
CDを聴くと、もっと複雑で難解だ。
自作自演集「8つの演奏会用エチュード」
「どこを弾いているのか、まったくわからない?」
いや、仮に最初わかったとしても、
途中で必ず小節を見失うだろう。
これが、カプースチンの高級な「冗談」なんだね。
一流の高級な「冗談」に大衆はついていけない。
しかし、それを分析、解明し、解説するつもりだ。
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今回は、曲の形式、全体の構成、
そしてコード進行を途中まで学ぼう。
「8つの演奏会用エチュード」(作品40)
第5曲目「冗談」(Op.40-No 5)
(プリズム版 58〜64ページ)
ブルースは、1コーラス12小節で出来ている。
1小節目の上に<イントロ>と書いたら、
各コーラスが始まる小節の上に
「1」〜「8」の番号を書き込んでおこう。
Intro 1〜8 (8)
[1] 9〜20 (12)
[2] 21〜32 (12)
[3] 33〜44 (12)
[4] 45〜56 (12)
[5] 57〜68 (12)
[6] 69〜82 (10+4=14)
[7] 83〜94 (12)
[8] 95〜108 (10+4=14)
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出来たかな?
それでは、コード進行を書き込もう。
[ I ntro ] 1〜8
| D7 | (〜8〜)
まず「イントロ」の8小節は、すべて「D7」なので、
1小節目の上だけに「D7」と書いておけばいい。
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1コーラス目は、ブルースの基本コード進行だ。
[1] 9〜20(12)
| D7 | D7 | D7 | D7 |
| G7 | G7 | D7 | D7 |
| A7 | G7 | D7 | A7 |
最後の小節(20)「A7」を正確に書くと「E♭/A7」。
「A7」の上に「E♭」の3和音が乗っているよね。
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2コーラス目も基本的なブルースのコード進行だ。
1コーラス目と同じだね。
[2] 21〜32(12)
| D7 | D7 | D7 | D7 |
| G7 | G7 | D7 | D7 |
| A7 | G7 | D7 | A7 |
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当たり前のブルースを2コーラス聴かせておいて、
3コーラス目から「カプースチン・マジック」が始まる。
この3コーラス目と1〜2コーラス目は、
どこが違うのか?よく比べてみよう。
[3] 33〜44(12)
| D7 | G7 | D7 | D7 |
| G7 | C7 | D7 | D7 |
| B♭7 | E♭7 A7 | D7 | A7 |
2小節目「G7」
古いブルース以外は、ここで当然「W7」を使う。
セッションなどでも当たり前なので覚えておこう。
6小節目「C7」
これも、よくやるかな。2小節目「G7」は必ずだけど、
これは「時によって」ぐらいの感じかな。
サブドミナント・マイナー「Gm6」の代理コードだね。
さて、3コーラス目の注目するべきコードは、
9小節目「B♭7」と、10小節目「E♭7」だな。
「E♭7」は、「A7」(ドミナント)の代理コードだ。
ドミナント♭7・コードの減5度上のドミナント♭7が
代理コードになる。
なぜ?
♭7コードの特徴である大切な音(三全音)、
3と♭7が共通だからだ。
「A7」の3度(♯ド)、♭7度(ソ)
「E♭7」の3度(ソ)、♭7度(♭レ)
まったく同じ音だよね。異名同音だけれど。
次に「B♭7」は、何だろう?
何でこんなところで使えるの?
これは「A7」(ドミナント)に行くための「E7」だね。
セカンダリー・ドミナント(第2のドミナント)の1つ。
ジャズでは、ファイブ・オブ・ファイブ。
クラシックの和声学では、ドッペル・ドミナント。
その「E7」の代理コード(減5度上)が「B♭7」なんだ。
日本では、この関係(ドミナントの代理)のことを
俗に「裏コード」って言うんだ。
話を整理しよう。
ここの本来のコードは
| E7 | A7 | D7 |
|U7 |X7|T7|
まず「A7」を代理コードにする。
|E7 |E♭7|D7|
次に「E7」も代理コードにする。
|B♭7|E♭7|D7 |
「裏のドミナント・モーション」が出来上がりだ。
カプースチンは頻繁に裏コードを使うんだよ。
そして、みんなの「裏をかく?」わけなんだ!